うどんと殿さま


 昔、伊予の国大州(おおず)の殿様は大変な美食家で、毎日沢山の御馳走を用意させていたが一度も美味しいとは言わず、「明日はもっと旨いものを」などと言っては家来達を困らせていた。その上他にやることがないので体を動かさず、旨いものばかり食べているのですっかり太ってしまっていた。そこで何とかして殿様に運動してもらおうと城下の見回りに連れ出したものの、殿様は馬上で居眠りばかり。しまいにはそのまま馬から転げ落ち、慌てて駆け寄った家来達の心配顔をよそに相変わらず眠ったままという有り様。さんざん悩んだ末に家来達は、殿様自ら体を動かすようになるようにと、今度は小田深山(おだみやま)に鷹狩りに連れていった。始めは眠そうだった殿様も、次第に夢中になって兎を追いかけるうちに、すっかりお腹がすいてしまった。山の中で突然食事の用意を申しつけられた家来達は大慌て。とてもいつものような御馳走は用意できない。ようやく見付けた近くの人家で頼み込むと、その家のお爺さんがうどんを打ち、飯櫃に入れたお湯の中に泳がせて持ってきた。そんな物とても殿様の口に合わないと思って家来達がハラハラしながら見ていると、体を動かしたことですっかり腹をすかせた殿様は、一口食べるなり「旨い、旨い」と大喜び。あっと言う間に平らげてしまった。こうして殿様はうどんが大好物になり、又家来達の進言を聞いて体を動かすようになって、太っていた身体も随分と引き締まった。これが小田の手打ちうどんの起こりだという。

 こうした形は少ないのですが、この話では原作と演出の間にプロットを挟んでいます。原話については愛媛県の民話という以外良く分かりませんが、殿様について美食家とも肥満とも何とも書いてありませんし、物語は鷹狩りから後の部分だけです。ですから殆どの構成は沖島勲さんが書かれたプロットに拠っています。うどんが低カロリー食品であることと、思いがけない山の中での食事の用意で慌てふためく家来達の状況をより面白く誇張する意味から、この大美食家の超肥満体殿様が生まれたのだと思います。ただ、プロットではすぐに家来達を怒鳴りつける怒りっぽい殿様だったのですが、私の演出ではもう少し怠惰で面倒臭がりの殿様になっています。(自分に似てしまいました。)最後にうどんが大好きになった殿様が、お腹がすくたびに「手打ちじゃ、手打ちじゃ」と言うので、家来達が首を切られると勘違いして生きた心地がしなかったというくだりは、原話をそのまま生かしています。

 御覧になって気付かれたかも知れませんが、当時大評判だった月岡貞夫さんのアニメーション「こんなこいるかな」(NHK)を、絵作りの上で大変参考にさせていただきました。皆同じような格好になってしまいがちな侍の場合このスタイルがとても有効で、いつも右往左往している家来の凸凹トリオを非常に分かり易く描くことができました。背景についても、できるだけシンプルにという注文に応えて、内田好之さんが素晴らしい絵を描いて下さいました。一見和紙のちぎり絵に見えますが、全て手描きによる物です。見ていた方が、思わずうどんを食べたくなったりしていてくれたら嬉しいのですが…。

演出:原画:三善和彦

美術:内田好之

文芸:沖島勲

昭和63年6月25日放映


   

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