鶴の屋敷


 昔、あるところにおじいさんとおばあさんが居た。おじいさんは、木で鳥を彫るのがとても上手だった。ある日おじいさんは、木を切りに行った山の中で大変美しい鶴を見た。おじいさんはその姿を忘れられず、その晩から鶴を彫り始めた。夜も昼も忘れ幾日もかかって、とうとうおじいさんは大きく美しい真っ白な鶴を彫り上げた。それはおばあさんの目にも、まるで生きているかのように見えた。おじいさんは鶴に乗ってみたくなった。「明日これに乗って飛んでみよう。」そう話すおじいさんに、突然鶴が「おじいさん、明日は風が吹くよ。」と言った。おばあさんはすっかり驚いてしまうが、おじいさんは気にもとめない様子だった。
 翌日、未だ前夜の鶴の言葉が気にかかるおばあさんをのこして、おじいさんは鶴に乗って大空に舞い上がった。家や畑が、見る間に小さくなっていった。大空を思いのままに飛び回り、おじいさんはとてもいい気持ちだった。すると突然晴れていた空に真っ黒な雲が広がり、風が吹き始めた。鶴は飛び続けることができなくなり、おじいさんとともに森の松の木の上に落ちてしまった。
 おじいさんは、家で待つおばあさんの元にはそれきり帰ってこなかった。今では、その松の木のある所を「鶴の屋敷」と呼んでいる。

 原作は、九州太宰府に伝わる話で、またの名を「とおのこがの伝説」といいます。原作では鶴が発した警告を、おじいさんもおばあさんも気にしていないように描かれていますが、私の演出では、おばあさんだけが気にかけているものの、あんまりおじいさんが喜んでいるで「怪我の無いよう、行ってらっしゃい。」と言って送り出すようにしました。個人的な話ですがちょうどこの話を頂いた頃祖母が亡くなり、祖父が亡くなって以来ずうっと一人で暮らしていた祖母のことを考えない訳にいきませんでした。ですから映像的にも、比較的おばあさんに重きをおいた演出になっています。おじいさんが先立っていくという運命をやがておばあさんが受け入れていく様子を描き、同時に遺されるという現実の残酷さを表現したくて、ラストシーンでは鳥の大群が鳴きながら松の木の上を飛び去って行くという映像を入れました。

 

 演出家としては4作目で、急激に演出のおもしろさに夢中になり始めた頃の作品です。それとともにアニメーションの手法についてもいろいろ実験したくなっていた頃で、キャラクターは全て和紙のちぎり絵で制作しています。それまでも「まんが日本昔ばなし」には名作「天福地福」という和紙のちぎり絵を使った作品があったのですが、それでもキャラクター全体が和紙というわけではなく、しかも「鶴の屋敷」の場合、終盤の飛行シーンを全てこの手法で緩やかな動きをアニメートしようというのですから、無謀というほかありません。動画と和紙を重ねて鉄筆でトレースし、和紙に付いた跡に従ってちぎっていったのですが、鶴の羽の形はただでさえ大変な上に、その時入手した純白の和紙には(障子用の紙だったので)若干ビニールの成分が含まれていた為ちぎりにくくて閉口しました。


演出:三善和彦

原動画・セルワーク(貼り絵):三善和彦(&BOB ANIMATION FILM)

美術(背景):西村邦子

文芸:沖島勲

昭和56年11月28日放映


  

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