もちの白鳥


 昔、富山の下立(おりたて)村にどえらい長者がいた。何百反もの田畑に米蔵酒蔵宝の蔵を七つづつ持ち、何十頭もの牛や馬、それに何百人もの使用人を使って、城のような屋敷に住んでいた。長者は使用人達の仕事ぶりを馬に乗って見て回り、少しでも仕事の遅いものがいると例え病人や老人でも容赦せず、お陰で使用人達は一年中休むことなど出来なかった。こんな長者も一人娘だけには目がなく、姫や姫やと大層な可愛がりようだった。やがて姫は年頃の娘になり、万山(よろずやま)の板東長者のもとへ嫁ぐことになった。そこで長者はなんとしても誰も見たことがない程立派な婚礼にしてやりたいと思い、あることを考えた。その日から全ての田圃に餅米の苗が植えられ、使用人達は夜明け前から日が暮れた後まで、前よりも一層ひどく働かされた。やがて秋になると、長者はとれた餅米で来る日も来る日も餅をつかせ、そうして出来た餅を、板東長者の家まで姫の歩く道にぎっしりと敷き並べさせた。そして婚礼の日が来て、姫はゆっくりと餅の上を歩き始めた。その様子を、使用人達は遠くからじっと見つめているしかなかった。行列が中程まで来たとき、姫の背後から白い鳥が一羽飛び立った。と、思う間もなく、餅は次々に白い鳥に姿を変え、すさまじい羽音を立てて一斉に大空へ舞い上がった。姫の婚礼は、こうしてめちゃくちゃになった。それからは長者の田畑には五穀が何も実らなくなり、使用人も次第にいなくなって、長者の屋敷にも住む者がなくなって荒れ果てていったという…。

 「富山県の民話」(偕成社刊)からの稗田菫平さんの原作に登場する長者は、救いようの無いくらい酷い長者です。確かに使用人の側から見れば、冷酷極まりない人間だったのでしょう。そんな長者がただ一人だけ愛したのが娘だった訳ですが、愛し方の分からない長者は突拍子もない婚礼を用意してしまい、そして全てを失ってしまうのです。そんな長者の哀れな側面も際立たせたいと思いました。姫の嫁入りが決まったとき、原作では長者はただ「たいそうよろこ」ぶだけですが、「長者にとって何よりも大事な姫じゃったが…長者は、とうとう」嫁がせる決心をするというように描きました。姫を可愛がるシーンでは繰り返し姫の髪を梳き、遂に嫁がせることを決心したところで、長者がその櫛を折る手元のアップを入れるというアイデアは、その頃一緒に仕事をしていた大竹伸一さんから頂いたものです。私も今は二人の女の子の親ですが、その頃はまだ独身でしたので、当時既に二人娘さんがいた大竹さんのアイデアに、さすがと感心しました。長者の声をやって頂いたのは市原悦子さんでしたが、アフレコの後で市原さんが「長者は何も間違っていない。」と仰っていたと聞き、とても嬉しかったのを覚えています。

 原作についての部分で書いたような主旨から、極端なまでの様式的な画面作りを心掛けました。長者は使用人達に対し常に見下ろす位置か、又は手前に大きく見える位置にいて、それをカメラが離れた位置から俯瞰で見ています。(ラストでこの関係は逆転します。)カメラは殆ど全カットが超ロングショットで、キャラクターは全て目鼻の無いノッペラボウばかりです。(こんなキャラクターは、「まんが日本昔ばなし」始まって以来だと言われました。)例えるならば、千代紙で作った人形です。その意図を酌んで下さった美術の阿部幸次さんが、素晴らしい背景を描いて下さいました。一見千代紙を使用したものに見えますが、実は全て手で描かれたものです。気の遠くなるような作業ですが、こうして描かれた色鮮やかな背景画によって絵巻物のような作品が出来上がりました。

演出:三善和彦

原画:志村芳子

美術(背景):阿部幸次

文芸:沖島勲

昭和60年10月5日放映


   

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