夜中のおとむらい
 昔、山形の鶴岡に大場宇平という侍がいた。ある日仕事を終えての深夜の帰り道、弔いの行列とすれ違った。不審に思った宇平がだれの弔いか尋ねると、「お馬回り二百石、大場宇平様の弔いです。」と言う。自分の弔いと聞いて驚いた宇平が慌てて家に駆け戻ると、家人は一人もおらず、家の前には送り火を焚いた跡が残っていた。途方に暮れた宇平が城の堀端までさまよい歩いてくると、宇平の友人横山太左衛門が声をかけてきた。宇平は太左衛門にそれまでのことを話し、二人で宇平の家までやってくると、何事も無かったかのように家族が出迎え、ずうっと宇平の帰りを待っていたと言うではないか。呆然とする宇平だったが、とりあえずその場はちょっとした勘違いということで納め、太左衛門は帰宅した。宇平の話を全て疑うこともできず、妙に心の角に引っかかっていた太左衛門の元に、数日後の朝二人の侍がやってきた。なんと宇平は昨夜遅くに屋敷に押し入った賊に切り殺されたのだと言う。弔いの行列に加わって墓場に行く途中、太左衛門は大場宇平の話した不思議な体験のことを考えていた。と、その時「もし、これはどなたのお弔いかな?」と言う宇平の声がする。はっとして太左衛門が振り返ったが、そこにはもう誰の姿も見えなかった。宇平が見たと言っていたのは、この行列のことだったのか…と、太左衛門は初めて気付いたのだった。

 澤渡吉彦さん(未来社刊)の原作では、話の中心はもっぱら大場宇平が体験した不思議な出来事です。後半もあっさりと、不思議な体験をした宇平が本当に死んでしまった、あれはおいなりさんが知らせたのかも知れない…と言う人々の噂で締めくくってあります。私はこれをSFの所謂タイムスリップ物として脚色することを考えました。そこで横山太左衛門なる人物を創作し(原作には登場しません)、後に死んでしまう宇平に代わって、不思議な体験の訳に気付く人物として設定しました。ところで主人公の姓名役職まではっきりしているとなると大場宇平は実在した人物なのかもしれませんし、彼の不思議な体験も本当にあったことと思えてきます。実際に真夜中自分の葬式とすれ違ったらと想像してみると、本当に背筋が寒くなります。

 演出、作画、背景から彩色に至るまで、撮影とアフレコ以外殆ど自分でやった作品です。ざらついた画面は、全てコピーを使ってあります。背景は、木炭紙に黒いダーマトグラフで絵を描いた物を様々な色の紙にコピーし、それを部分部分に分けて張り合わせることで、独特の(例えば昔の銀盤写真に彩色したような)画面を作りました。キャラクターも同様のやり方で作画し、やはり一旦コピーしたあとで動画用紙に位置を合わせて貼り付け、(コピー機のトナーは、鉛筆の粉同様にアニメーション用のトレスマシンに反応しますので)トレスマシンでセルに複写しました。(直にセルをコピー機に手差しで入れると、位置は合いませんし、熱でベコベコになってしまいます。)彩色はキャラクターごとに殆ど単色なので一見楽そうに見えますが、これくらい単調な仕事はありませんでした。

演出・原動画・セルワーク(彩色)・美術(背景):三善和彦

文芸:沖島勲

平成元年12月16日放映

  


    

画像および文章の無断転載・無断使用は禁止します.
Copyright(C)1997,Kazuhiko Miyoshi All Rights Reserved.
 尚「まんが日本昔ばなし」の画像についての著作権は愛企画センターが有しています。