恐山のおどり鬼


 昔、恐山には鬼が住んでいて、人は誰も足を踏み入れようとしなかった。麓の田名部(たなぶ)という村に、庄作という若者が爺様と二人で暮らしていた。庄作は村一番の踊り上手で、それは爺様譲りと言われていたが、今では爺様はすっかり耳も遠くなって寝たきりになっていた。ある年、村を酷い日照りが襲った。対策を練るための寄り合いに誘いに来た村の若者に、爺様は恐山にいる踊り好きな鬼のことを話そうとした。しかし若者はそれどころではないと話を遮ってしまう。若者が帰った後、爺様はその鬼がいくらでも水の出る茶碗を持っていることをポツリとつぶやいた。それを聞いた庄作は寄り合いでその事を話し、自分がもらいに行くと言った。爺さまの話を信じない村人達は皆で止めたが、庄作は恐山へ出かけていった。恐山で大きな赤鬼に出会った庄作は、下手に踊れば頭から食うぞと言われながら一生懸命踊った。その踊りがあまりにも楽しそうだったので、赤鬼は大勢の鬼たちを呼んできて皆で庄作を囲んで踊り出し、それは日暮れまで続いた。鬼たちは大喜びで、褒美に何が欲しいかと聞いた。庄作は村を助けるために、水の出る茶碗が欲しいと申し出た。鬼たちは庄作の勇気に感心し、快く茶碗を渡してくれた。心配する村人達の前に帰った庄作が、鬼に教わったとおりに茶碗の縁を擦ると、たちまち水が溢れ出して川に流れ込み、枯れかけていた作物も元気に生き返った。
 今でも田名部の水が満々と流れているのは、この茶碗からまだ水が流れ続けているからだそうな。

 青森の伝説(日本標準刊)からの成田喜一さんの原作では、庄作の「じさまから聞いた話っこだども」という台詞で登場する以外、じさまは何処にも出てきません。まして寝たきりだとか、じさまと二人暮らしだとか、じさまも若い頃は踊り上手だったとかいうようなことは一切書かれていません。これらは全て私の創作ですが、じさまが寝たきりで些か痴呆が進んでおり、じさまの言うことなど村人の誰も真剣に聞こうとする者が居なくなっていたという設定で、孫の庄作だけがその一言を便りに命がけで恐山に登るというドラマに厚みを持たせたいと思いました。このじさまの声を常田さんが熱演して下さり、とても存在感のあるじさまができました。また原作では、庄作は一生懸命躍ったらのどが渇いたと言って鬼に茶碗を差し出させますが、ここは正直に村の窮状を訴えて、自分が来た目的を話した上で茶碗を貰うというようにしました。

 この作品の心臓部はなんといっても踊りのシーンです。特に鬼と一緒に躍るところでは、見ている人まで楽しくなって思わず微笑んでしまうようなシーンになるようつとめました。後半の歌は原作にある通りなのですが、最初の歌は原作の台詞をアレンジして私が作りました。更に節や振り付けまで考えたわけですが、アフレコで拝見していると、やはりいきなり動きに合わせて頂くのは無理の様子。そこで仕方なくやったことというのが、市原さんと常田さんを前にして実際に歌いながら踊ってみせることでした。硝子の向こうの調整室で他のスタッフが笑いながら見ているのを横目に、市原さんは真面目な顔で「もう一度やってみせて下さい。」などと仰います。汗びっしょりでアフレコが終了しましたが、本当に楽しいシーンになってホッと胸をなで下ろしました。
 ところでこのシーンを作画している頃、チーフアニメーターの上口照人さんに「こういう時に一人くらいテンポがずれてる奴が居たりすると、面白いんだよなあ。」と言われ、それならばと少し遅れて踊る鬼を描きました。

演出・原画:三善和彦

背景:安藤ひろみ

文芸:沖島勲

平成元年7月8日放映

 


     

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