紺屋とゼニガメ


 昔あるところに、川を挟んで東と西に二軒の紺屋があった。二人の紺屋はいつもその川で、染めた布を水洗いしていた。ある日、白い髭を生やしたお爺さんが二軒の紺屋にやって来て、「お金はいくらでも出すから、この布を紺色に染めて下され。」と言い、白布を一反ずつ置いていった。東の紺屋は「しめしめ、金は望みのままだ。」と言って喜び、西の紺屋は「よほど大事な布だろうから、丁寧に染めねば。」と考えた。ところがこの白布は、いくら一生懸命染めようとしても川で水洗いするとたちまち元の白布に戻ってしまい、どちらの紺屋もどうしても染めることが出来なかった。二人はすっかり困ってしまった。やがて約束の日になって白髭のお爺さんがやって来た。東の紺屋は約束通り出来たと言って、水洗いせずに乾かした布を差し出した。お爺さんは、何も言わずに大金の入った箱を置いて帰っていった。西の紺屋は染められなかったことを謝ると、白布と一緒にもう一反の別の紺色の布を差し出した。お爺さんは、やっぱり何も言わずに大金を置いていった。その夜、東の紺屋が変な物音に目を覚ますと、箱の中の大金に手足が生えてみんな小さなゼニガメになっていた。ゾロゾロ箱から逃げ出したゼニガメを東の紺屋が追いかけていくと、川の中からあの白髭のお爺さんがゼニガメ達に手招きしていた。お爺さんはその川の水神さまだったのだ。それ以来川の東側はゼニガメのために水が濁り、良い染め物が出来なくなってしまったが、西の紺屋は水神さまからもらった金で益々大きな紺屋になって繁盛したという。

 寺沢正美さん(未来社刊)の原作が既に完成された話であったため、内容は殆どそのままで何も変えていません。しかし原作を読んだ時にはさほど感じられないのですが、映像にした時あまりにそのままだと、東の紺屋がつぶされてしまうほどの悪事を働いたとは感じられません。そこで冒頭から東の紺屋の西の紺屋に対する一方的な嫌がらせを複線的に見せたり、最大のミスであったところの嘘をついたという部分を際立たせようと、水神さまに「嘘はいかん。嘘はいかんよ。」などという台詞を言わせたりしたのですが、それでもまだ映像的には弱かったようです。文章の表現と映像表現の大きな違いを感じさせられました。

 藍染のことについては全く知らず、全て一から調べましたが所詮本で読んだこと。特にアニメーションですから、何とかして染めている動作を見たいと思ったものの結局かなわず、ところが作品完成直後に藍染についての特別番組が放映され、冷や汗をかきながら見た覚えがあります。「まんが日本昔ばなし」では時代考証なども全て演出家個人がやるわけで、特に高視聴率の番組でもありましたから、間違いがあったらどうしようと毎回心配していました。東の紺屋は商売人的発想、西の紺屋は職人的発想をするわけですが、藍染の工程も東の紺屋は合理的・効率優先主義的に、西の紺屋は非効率的なまでの品質最優先の職人気質という感じを出そうと工夫してみました。また、ごまかした布であることを映像でも分かるようにするために、東の紺屋が手をどけると、その手の形に(紺屋の手の冷や汗で)布が白くなっており、慌ててその布をひっくり返してごまかすというシーンを作りました。

演出:三善和彦

原動画:三善和彦(&BOB ANIMATION FILM)

美術(背景):内田好之

文芸:沖島勲

昭和58年12月17日放映


   

画像および文章の無断転載・無断使用は禁止します.
Copyright(C)1997,Kazuhiko Miyoshi All Rights Reserved.
 尚「まんが日本昔ばなし」の画像についての著作権は愛企画センターが有しています。